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東京高等裁判所 昭和31年(ラ)5号 決定 1960年3月08日

抗告人 柳沢軍治

主文

原審判を取消す。

本件を新潟家庭裁判所(長岡支部)に差戻す。

理由

抗告代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由として、末尾記載の通り主張した。これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

抗告理由第一点について、

家事審判法による審判の手続は、裁判の対審ではないから、これを公開しなくとも違憲ではない。論旨は独自の見解で採用の限りではない。

同第二点イについて、

抗告人提出の家屋台帳謄本及び記録第一一丁長岡市長の建物証明書によれば、所論建物が、家屋台帳の上では昭和三一年五月三一日現在で、長岡市備付の公簿上では同二九年一月二七日現在で、いずれも柳沢むめ(柳沢むめは、本件被相続人の一人柳沢ムメと同一人であると解する。)所有名義に登載されていることが認められる。しかし、一方、昭和三〇年二月二五日の原審審問期日調書によれば、同期日において、本件遺産分割申立人の一人である柳沢盛治は、所論建物は、柳沢ムメの生存中他に売却され、同人の遺産には属さない旨陳述し、これに対し、抗告人も、何ら右陳述を争う陳述をしていないことが明かで、この事実によれば、所論建物は、柳沢ムメの遺産に属していなかつたものと認めることができるから、原審判が右建物をムメの遺産に加えなかつたことを以て事実誤認ということはできない。論旨は理由がない。

同ロ、について、

抗告人提出の登記簿抄本によれば、1長岡市大島町字前島甲一四六二番畑三畝歩、2同所甲一七〇八番畑二畝九歩3同所甲一二四五番の一田二畝三歩、4同所一二四五番畑一八歩及び5同市大島町字古志巻甲九五一番の二畑一畝四歩の五筆が、昭和三一年六月二日現在、登記簿上、本件被相続人の一人柳沢軍平の所有に記載されていることが認められる。しかし、一方、記録第二一丁以下の原審家事調査官の調査報告書には、右1と2の各土地は、いずれも、昭和二二年一二月二日、いわゆる農地解放により政府に買収されたもの、3ないし5の各土地は、昭和二〇年一二月中柳沢軍平が他人に売却したものである旨の調査結果の記載があり、該記載によれば、右五筆の土地は、いずれも、原審判当時柳沢軍平の遺産に属しなかつたものと認めることができるから、原審判が、これらの土地を以て軍平の遺産に加えなかつたことを以て事実誤認ということはできない。その他記録を精査しても、原審判が、柳沢軍平の遺産を脱漏して本件分割に加えなかつたものと認めるべき資料はない。本論旨もまた理由がない。

同ハ、について、

原審判は、その添付第3目録記載の農地証券二〇枚を、全部被相続人柳沢軍平の所有であつたものと認定してその分割方法を定めている。しかるに、抗告人提出の日本勧業銀行新潟支店の証明書によつても、なお、昭和三〇年一二月一二日附原審家庭裁判所調査官小松仁の調査報告書によつても、右農地証券の相当枚数が抗告人所有のものであつたことが認められるから、原審判の右分割は、遺産に属しないものを遺産に加えて分割した誤りがあるものである。

本論旨は理由がある。

同ニ、について、

記録中の昭和三〇年二月二五日、同年三月七日及び同月一五日の各審問期日調書の記載を綜合すると、所論動産の評価については、右二月二五日の期日には、抗告人は、これを一五万円と主張し、前記柳沢盛治は、五万円ないし七万円であると主張したが、三月七日の期日には抗告人は一〇万円を相当とすると述べ、同月一五日の期日には盛治も一〇万円と見積ることに異議がないと述べ、ここに両名の主張の一致を見たものであることが明かである。所論はかかる明白な事実を看過するもので、採用の限りでない。

同第三点について、

前記柳沢盛治が農業を営む者であることを認めしめる直接の証拠は記録中に見当らない。しかし、記録第二一丁以下の家事調査官の調査報告書によれば、右盛治は、いわゆる農地解放により、当時柳沢軍平所有名義であつた農地の相当筆数の売渡を受けたことを認めることができる。このことは、その当時の所轄市町村農地委員会又は農業委員会が、盛治を以て、解放農地の売渡を受け得る農業経営者と認定した事実を示すもので、この事実によれば、盛治を以て農業を経営する者と推認することは不当ではないから、原審のこの認定は不当ではない。なお、所論の如く、盛治が農業経営者でないとの資料は記録中に存しない。

なお、論旨のその余の部分については、記録を精査しても、所論のような事実を認めることができない。

以上の次第で、本論旨もまた理由がない。

同第四点について、

論旨は、原審判の財産の範囲、分割方法、価格、審判方法等に関し、不服があるが、何れ書面で提出するというのであるが、現在に至るもそうした書面の提出がないので、その不服の内容を知ることができない。そして記録を精査しても、前記抗告理由第二点ハについて説明した点の外には、原審判を取消すべき理由を発見しない。

尤も、原審判は、相続人の範囲及び相続分を確定するのに、調査官の調査報告書のみによつており、該報告の右の点に関する部分は、申立人柳沢盛治について聴取しただけのものであるが、かくの如き相続に関する最も重要な事項については、たとえ調査官の調査報告を措信し得る場合でも、戸籍謄本等最善の資料によつて、その調査の正確性を記録上明かにしておくこと至当とすべく、また、本件被相続人の一人柳沢ムメの名は「むめ」でないかの疑いもあるが、これらも戸籍謄本によつて明確にすべきである。その外、例えば、抗告理由第二点イ、ロ、の各財産が遺産に属していない理由、柳沢盛治が農業経営者である事実などにしても、より一層適切な証拠によつて明確にしておくことが妥当と認められる。

以上の次第で、本件抗告理由第二点ハはその理由があり、原審判は取消を免れない。

よつて主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 内田護文 裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 入山実)

参照 抗告理由書

第一点

家事審判法は憲法第八十二条に違反する無効の法律であるから原審判も無効である。

家事審判が本質的には司法権の作用ではないから公開審理がなくとも憲法違反ではないと言う見解があるが司法権と行政権との関係は概念の定立の仕方により差異あるも何れにしても限界が画然としたものではないのでいやしくも裁判所の権限に属し強制力を有する有権的判断は原則として「裁判」と解釈することが現行憲法を頂点とする法律制度の解釈としては正しいものと謂はなければならない。

然るに家事審判や少年審判は非公開で憲法の条項に違反しているので無効であるから原審判も亦無効である。

第二点

原審判は事実誤認の違法がある。

イ、被相続人柳沢ムメ所有名義の長岡市大島町六二〇所在居宅木造板葺平家建二十坪七合五勺については審判していない。

ロ、同柳沢軍平の不動産中脱落した部分がある。

ハ、農地証券は柳沢軍治のものが大部分なるに軍平のものとして分割している違法がある。

ニ、被相続人の動産を十万円と評価し、それは盛治と軍治の協定なりと謂うがそれは以前に別件で和解の際の話で何人も承服している訳ではないから現在の価格に評価すべきである。

第三点

原審の審判手続は審理不尽不公正な違法がある。

元来申立人柳沢盛治は財産の横領を企て、動産や立木庭石等の高価品を檀に処分し抗告人軍治の特有財産たる農地を全く不知の間に「小作して」いたごとく書類を捏造して居市農地委員会をだまして買収せしめ自己に売り渡させたものであつて、その上に自己の欲する土地を取得すべく申立てその通りに近い線で審判されているのは実情を無視するのも甚しい。

更に驚くべきことは原審では盛治が農業を営んでいるとて第一目録の財産を分割したが盛治は農業の経験はなく無職ルンペンか給料生活をしている。数年前からは長岡市の三盛館印刷所の外交員として勤務中にて農業は全然やつたことかない

更に不動産の分割は同一地区のものを小刻みにしているので将来全部宅地化すべき運命にあるのに余りにも実情を無視して反つて将来にけんかの種をまくものである。本来ならば実地を検分して分割についても然るべき専門家の鑑定若しくは意見を聞くべきものである。

金銭の分割とは異り不動産は利用が重点であるのに原審がこの点を考慮しないのは極めて遺憾である。

第四点

その他財産の範囲、分割方法、価格、審判方法等

あるが何れ書面にて提出する。

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